自転車で人を轢いた。
と言っても、こちらは急ブレーキでほとんど止まっていて、走ってきた相手が自転車の籠に体当たりする格好だった。飛び出した勢いを全く衰えさせることなく。
相手は三十代と思しき男性で、四、五歩つんのめっただけで、怪我はなく、落としたヘルメットを拾って、すみません、すみません、と言いながら走り去っていった。
もしこっちがバイクか自動車に乗っていたら、と思うとゾッとする。
こういうことがあるから、免許は取らなかったのだが。


高額療養費の還付金などで、少ないながらも遺産らしき物があり、それを母と兄と三人で分配する事にしていたのだが、兄が「受け取らない」と言ってきた。
どういう思いがあってそういう決めたのか、あれこれ推し量ってみても確かな事はわからないが、どうも
「お前も免許を取れ」
と言いたいのではないか、という気がする。そして、「一緒に墓参りに行くときなど、運転を代わって俺を休ませろ」と。
遺産、と言うには恥ずかしい額のお金は、家の中の細々した部分の修理、たとえば割れたガラス戸の交換などや、庭に放置してある壊れた家電などの処分で、ほとんど無くなってしまうだろうが、免許を取ろうという気持ちにはなった。親戚づきあいをするにしても、自分で運転する方が気兼ねしないだろうし。
いつになるかは、まだわからんのだが。


…もし、兄がお盆にでも帰ってきて、大画面テレビとPS3が置いてあったら怒るだろうな。